先日、「ePub3.0 標準化の行方」セミナーに参加しました。内容は以下の通りです:
- 第一部: ePub 3.0 仕様の行方
- 第二部: 紙と電子のハイブリッド出版を実現する汎用書籍編集・制作サービス
- 第三部: 今後の計画とサービス体系
このうち、第一部の内容とセミナー全体の概要は過去エントリーに書きました。ご参照下さい。
本エントリーでは、第二部と第三部で紹介されたサービス「CAS-UB」の内容を紹介します。
CAS-UB
CAS-UB はオンライン型の文書編集サービスで、PDF と ePub を出力することができます。現在はアルファー版で、一般公開・テスト公開はしていないとのこと。今回のセミナーでは、その機能の一端を見せて頂き、今後の展望を伺いました。
現状
ePub の規格は公開されているため既に ePub 作成ソフトは幾種類も開発されている。しかし、販売流通系体が完成していない (特に日本)。そのため、ePub のみの販売は難しい。現実を鑑みれば、書籍と電子書籍の両方が同時に発売される様想が一定期間続くのではないか。
そのためには同じデータから書籍と電子書籍の両方を作れると便利。ただし、書籍と電子書籍には大きな隔たりがある:
解像度 | 縦横比 | 文字サイズ | レイアウト | ページ数 | |
---|---|---|---|---|---|
書籍 | 不変 | 不変 | 不変 | 崩れない | 変化しない |
電子書籍 | 端末依存 | 端末依存 | 可変 | 流動的 | 不定 |
現在、書籍作成で最もよく使われている (?) ツールは Adobe InDesign。このツールは書籍用に PDF を作成する。また、ePub 出力機能もある。しかし、InDesign の ePub 出力機能は不完全 (レイアウトが崩れる、文脈が入れ替わる)。上記の電子書籍 (ePub) への対応は遅れていると言わざるを得ない。
CAS-UB が解決する
- 文章構造とスタイルの分離を明確化
- PDF を作成
- ePub もスタイルを変更して作成
- 普通に HTML で出来ることは過不足なく行なう
- 対応: 強制改ページ・整形済みブロック・注釈・リンクとアンカー・ID と参照・索引・ルビ・インクルード
- 自動作成: 目次・表目次・図目次・索引・後注・章/表/図番号 (一部機能は PDF 版のみ実装済)
CAS-UB のクラウド指向は次の通り:
- ブラウザーのみで共同作業 (Google Docs みたい)
- 履歴の保存・参照 (現在は Subversion を利用)
- データはデータ・センター上 (現在は Nifty を利用)
- バックアップ/リストア対応 (ローカル PC にデータをダウンロード/アップロード)
今後の計画とサービス体系
「今後の展望」で特に気に入ったのは以下の項目です。
- 高品質フォントの組み込み
- 共同編集機能の強化
- ePub 3.0 出力
- 英語対応 (海外展開を視野に)
CAS-UB は商用サービスということで、予定としては二種類のサービス料金を用意するとのことです。
対象 | 最大人数 | データ領域 | 料金 | 利用制限 |
---|---|---|---|---|
商業出版社、企業、団体 | 10 人 | 50 GB | 約 70 万円/年 | なし |
グループ、NPO | 5 人 | 25 GB | 約 25 万円/年 | あり |
リリース時期は、企業向けが 2011 年 6 月・個人向けが 2011 年内とのことです。
感想
実際に使ったわけではないので、コメントは難しいです。私自身は LaTeX を嗜み、ウェブ・ページは HTML 要素直書き派なので、WYSIWYG 環境は (Google Docs 含めて) もどかしさを感じます。そういう意味でも、私は CAS-UB の対象者から外れてコメントには不適切者だと思います。LaTeX をベースにして、PDF と ePub を作るウェブ・サービスがあると一番良いのですが、ニッチ過ぎるのでしょうね。
サービス体系に対しては、「グループ向け」の対象者が定まっていない様に思いました。個人というと、高校生の部活や大学生サークルを思い浮かべますが、彼らが本を作るのに年間十万円以上の出費をすると思えません。まして試用版なしでは厳しいと思います。個人で本を書いている人は、「グループ向け」は使わないでしょう。彼らはおそらく契約している出版社からサービス提供を受けるのではないでしょうか? ツールが良くても、このままではマーケティングに失敗する気がします。
素人考えですが、CAS-UB から ePub を販売できないものでしょうか? サービス提供のため、既に課金システムが動いているわけですから難しくないはずです。個人向けには、Apple がやっている様に、電子書籍代の 30% を取る様にすれば利用者のハードルも下がるでしょう。そして PDF 版をオプションにして、年間契約にする方が良いのではないでしょうか?
最後に InDesign の ePub 不具合について。セミナーの中で、「電子書籍の作り方」という本が、InDesign を使って ePub を作るための複雑な手順 (各種ツールを使う) を説明している
と紹介されていました。この本は、先日読み終わったばかりなので、近いうちにレビューを書きます。
電子書籍の作り方 (PCポケットカルチャー)
境 祐司
技術評論社 2010-12-09
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